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「はあ、それは――」
と、房一が台所に声をかけた。
が、それは徳次であつた。
「ほゝう!」
練吉はさつきから一人で喋つていた。
それから上着を脱ぐと、ワイシャツの袖をまくり上げて、診察にかゝつた。無造作にひよいと病人の瞼をつまみ上げ、めくつて、眼の色を調べた。半裸体のむき出しになつた腕をつかんで静かに屈伸させた。顔面の皮膚をひつ張る、足を立てさせる、今度は足の裏を見る、――それはまさに手慣れた、素速い、注意深い動作だつた。まさしく、医者といふものだつた。
「いや、どうも。――この男は私のごく懇意な者ですが、酒癖がわるいので、まあ今夜のところは大目に見てやつて下さい」
「おい、早く早く」
これは怪談どころか、一種の美談であるが、その事情をなんにも知らないで、暗い風呂場で突然こんな人物に出逢っては、さすがの柳沢権太夫もぎょっとしたに相違ない。元来、温泉は病人の入浴するところで、そのなかには右のごとき畸形や異形の人もまじっていたであろうから、それを誤り伝えて種々の怪談を生み出した例も少くないであろう。
彼女はその表情を少しもくづさずにすつと引き下つたが、間もなく帰ると、
「やあ。先日はどうも」
「どこの訴訟だ。なに鍵屋、うん、相沢か」
「ほらね、かういふ形のと、又別にかういふのがあるだらう」