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「いや、私はすぐこの近くで医者をしとる、高間といふ者ですが」
「どういたしまして。お茶位さし上げんと」
房一がそこへ出るのと、さつきの二人が表から入つて来るのと同時だつた。
来客の間にほつと寛くつろいだ空気が流れ、直造が袴をさばいて立ち上らうとした時だつた。
「あの山に田地を注ぎこんで裸になつたのは三人、わしも知つとる」
別に会ふ気がなかつたから、と云ふ代りに、
房一が入つて来るのを見たとき、練吉の顔には意外だといふ表情が浮かんだ。彼は房一の眼を迎へようとして一層高く頭を持上げたが、房一は気づかなかつたので、やがて、練吉はわざわざ座を立つて近づいて来た。
そんな風におぼえていてくれるとは思ひがけなかつた。
「わたしの方でも、もう一度こちらから上つて、お目にかかりたいと思つていたところなんですよ。――今日はこんな所で、じつさいいゝ案配でした」
「うん。青島陥落の、ほら、旅団長閣下だよ」
「僕はクレーが済んでから行つたんでね、もう終りで相沢の馬が勝つところだけをちよつと見たよ。――相沢、得意さうだつたぢやないか」
「化物が出た……」と、根津は笑った。「どんな物が出た。」
入浴は快適だったが、あがる時が苦痛であった。越して来たのが冬だから、湯から上ると、ガタガタふるえる。とりわけ寒い日は、全身をふく余裕がなく、夢中で着物をひッかぶっていたりした。